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すがって、泣いて。
嫌な予感を感じつつ、迎えた約束の日・・・。


仕事が終わって、結衣は約束の場所に向かった。

和哉が、車の中から手招きする。

結衣は、和哉の車に乗った。


「ごめんね、呼び出して。」

「ううん。なんの話?」

「うん・・・。」


少し沈黙があった後、和哉が言った。


「嫁にバレてた、全部。」



・・・・・「全部」・・・?



「え、全部って、うちらの事、全部?」

「そう。同じ店のカフェの子だって事も、相手が結衣だって事も。
 俺らの関係が始まった頃から、もう勘付いてたって。」



・・・・・・・・・・。


「お互いの家に行き来してる事も知っとった。結衣だって確信したのは、
 結衣が俺に送ったメールを見た時だって。あの、うちにトレイ忘れたっていう・・・。」



あ・・・。


「あのメールだけ、俺消すの忘れてて、たまたま嫁が携帯見た時、
 それを見たらしくて。」



あの時の・・・。


「嫁もコーヒーレディの経験があるから、トレイって聞いてピンときたらしい。
 忘れたって事は、うちに来てたって事だしね。」



・・・しまった・・・。


「お店の前で会って、挨拶した人でしょ?って、言われた。」

「・・・なんで、わかったん?」


「俺が好きそうな顔じゃなって、その時思ったんだって。それと、勘て。」


・・・・・勘、か。


「カフェがイベントするとか、メニューがどうとか、今までホール以外の話なんか
 全然しなかったのに、最近よくカフェの事話すし、その話してる時の俺は
 すごく、楽しそうだったって。」



・・・さすが、奥さん。

全部、お見通しだったって事か。


「でも、俺は絶対自分の所に帰ってくるって、信じてたって・・・。」


和哉は、前を向いたままで、結衣の顔を見なかった。


「体の関係はあるのって聞かれたから、あるって言った。」


・・・・・・・・・・?


「えぇ・・・?あるって、言ったん?」

「うん。だって、本当の事だし・・・。」

「でも・・・そんなん言うたら・・・。」

「そりゃぁ殴られたよ。文句も鬼のように言われたし。でも俺・・・。」


和哉は、勢い良く顔を上げて、結衣を見た。


「俺は、あの人の事が好きなんよって、嫁に言った。」




・・・・・・・・・・?





「・・・うそ。」

「ほんと。」


和哉が、結衣の手を握る。


「だって俺、どうしても結衣の事が好きなんだよ。
 家族を失ってでも、俺は結衣と一緒に居たい。」



握った手に、力がこもる。


「嫁は、結衣が独身だと思ってたみたいで、旦那さんも子供もおるって言ったら
 びっくりしてた。でも、体の関係だけなら許すって言い出して・・・。
 でも俺は、お前と別れてでもあの人と居たいと思うし、
 あの人も、俺と一緒に来てくれるって言ったって、言うた。」


「・・・えぇ?」


待って。

うち、まだ・・・。


「そこまで言ったら、嫁もプライド高い奴だし、別れるって言うと思ったんだけど・・・。」


和哉がうつむく。


「嫌だって・・・俺にすがって泣いたんよね。」


・・・和哉が、切ない顔をした。


出会ってすぐの頃、奥さんの事を話してくれた時の和哉の目と、同じ。


「一人じゃ生きていけんって、子供の為にも、一緒におってって、泣いたんよ。
 これからまた一からやり直す為に、結衣に会って、ちゃんと切って来てって
 言われて・・・。」



・・・和哉の視線の先には、家族の姿が在ったのだろう。

結衣は、黙ってしまった和哉を見ていた。


そして、繋いだ手を、離した・・・。


「結衣・・・。俺は、結衣を愛してる。」

「うん。」


「でも・・・。」

「・・・うん、いいよ、わかるよ。」


「なんか、結衣にあんな事言っといて、結局嫁と一緒に居るのなんか、
 結衣を裏切ったみたいに思われるかもしれんけど・・・。」


「そんな事、思わんよ。子供もまだ小さいし、奥さんの気持ちもわかるし・・・。」


「結衣・・・。」



また、和哉が結衣の手を取る。

結衣はその手を・・・。

握れなかった。



「でも、これだけは信じて。」

「・・・・・。」


「俺は、結衣を愛してる。いざとなったら、いつでも結衣と逃げる覚悟はある。
 調子がいいって思われるかもしれんし、信用もできんかもしれんけど、
 信じて欲しい。」


「・・・うん。」


ちゃんと、笑えていただろうか。


和哉の言葉が、胸に響かない。


・・・どうして?


繋いだ手が悲しくて、ゆっくり指をほどいた。


「ごめん。今日うちちょっと風邪気味で調子悪いんよね。
 うつったらあかんから、帰るわ。」


「結衣・・・。」


「心配せんで。和哉が言いたい事、わかったから。」


作り笑い、もう限界。


「これからも、俺と会ってくれる?」


不安気な顔をして、和哉が聞く。




「うん。」




そう言って、ドアを閉めた。



和哉と生きる道に、まだ迷いがあったから、決断から逃げる事が出来て
良かったやん・・・。

でも、それ以上に感じる、胸の痛みと、苛立ち。


一体、何故?


『切って来いって言われて来たけど、切る気なんて更々ないから。』

『でも、今度バレたら、俺らは確実に終わる。だから、絶対にバレないように
 慎重にやらないとね。』



なんでだろう・・・。


和哉と同じ気持ちになれない。



『裏切ったみたいに思われるかもしれんけど・・・。』



結局・・・。


家族が、大事。

それは、結衣も同じ。


奥さんも、和哉を愛してる・・・。


「家族」という絆に太刀打ちできるものが、結衣にはあるんだろうか。


そして。


和哉にも、あるんだろうか・・・。


今日の和哉は、遠くに感じた。

和哉の隣に、奥さんが居るみたいだった。


和哉は結衣に、愛してるって言ってくれるのに。

奥さんに、負けた気分だった・・・。




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テーマ:不倫 - ジャンル:恋愛

【 2008/11/20 16:01 】

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